ウチの社長の1人、桑原ちゃんに子供が産まれた。
よく似てて、可愛い。「この子のために、もう少し頑張らなければ、と思うんですよ」と彼は言う。
・・・
話は変わるが、友達に子供が産まれると、よく名付け親を頼まれた。
これって、そんな簡単なことではない。やはりある程度の責任が伴う。
名付け親とは、、、
ゴッドファーザーのことだからね。
そして、ゴッドファーザーとは、後見人、代父のことでもある。
・・・
もう30年も前、ガキの頃から仲の良い友達とバーで飲んでた時のこと。
「なあ、やっちゃん(私、ヒロタのことね)」
なあに?
「ガキができたわ。男や」
それはおめでとう。
「それでな、名付け親になってくれ」
ええよ。
「ただなあ、名付け親って言うのはな、ゴッドファーザーなんやからな。この子が困ったら、生涯面倒見たってくれなアカンねんで」
りょーかい(・ω・)ノ
・・・
忘れもしないその日、私はバーのカウンターで、冷凍庫でキンキンに冷やしたタンカレーというジンを飲んでた。なので、名前かあ、そうだね、、、
「ジン」
と言った。
その生まれたばかりの子、彼の名はジン、「仁」になった。
・・・
それから二十数年後、仁君は大きくなり、たまたまちょっとしたことで、東京の慈恵医大に入院した。
私はその友人と、仁君の病院に行った。
彼が大きくなってからはほとんど会ったことはないが、ゴッドファーザーである私のことはどう思っているのだろう。
「ファーザー」と呼ばれて、手の甲にキスされるのだろうか。ひょっとして、ドン・コルレオーネみたいな感じになるかも知れない。
ちょっとドキドキしながら、私はこう切り出した。
「君が仁君か」
はい。
「何か困ってることはないかい?俺は君のゴッドファーザーだからねえ」
仁君はボソリっと、、、
「…すいません、別に困ってません。それと、、、おじさんが何のことを言ってるのかよくわかりません」
どうやら、誰も彼に私のことを伝えてなかったようだ。
意味ないやん。
・・・
日本人だけではない。タイの友人トンさんも、私にゴッドファーザーを頼んできた。
アユタヤ銀行に勤める彼は、ネイビーの将校を父に持ち、兄弟は王室御用達の医者をしている、つまり軍と王室にコネを持つ、ある意味最強一家だ。私はタイに行くとその家族によく世話になっている。
ある日、彼はこう言った。
「ヤッチャン(彼もこう呼ぶ)、今度男の子が生まれる。日本語でもタイ語でも通る名前をつけてほしい(タイ語)」
りょーかい(*´∀`)ノ
・・・
また、ゴッドファーザーになる。良かろう。
しっかりと良い名をつけよう。
(タイでは本名はめちゃ長い。それとは別にあだ名みたいなものをつける。それを普段使う)
その時私は、その彼の家で、ドラマ「医龍」を見てた。タイでも人気なのだ。
主人公は朝田龍太郎。
何でも治してしまう、スーパードクターだ。「リュウちゃん」と呼ばれてる。
トンさん一家も医龍が大好きだし、発音も悪くない。
・・・
私は決めた。
トンさん、「リュウ」はどう?日本語としても竜はとても縁起がいい。王の象徴でもある。
いいねえ、とトンさん。
リュウ。いいじゃないか。
・・・
リュウちゃんは無事に大きくなり、2歳くらいになった頃、、、
私は小さな違和感を覚えた。
家族達がリュウちゃんを呼ぶ「発音」が、どうもリョウちゃんに聞こえるのだ。
まあ、タイ人発音だからかなー、なんか違う気がするなー。
ある日リュウちゃんの名前が書いてある書類を見た。
こう書かれていた。
「Ryo」
リョウじゃん。
・・・
さてここで、冒頭に出てきた、桑原ちゃんの子供の話に戻る。
私はふと、桑原ちゃんの子供にも名前を考えてあげるべきかも知れない、と思ったのだ。
私はゴッドファーザーだ。電話してあげよう。
「プルルル、プルルル、もしもし、桑原ちゃん?」
「はい、会長」
「子供の名前、考えてみたよ」
「はあ」
「くわ太郎ってどう?桑原くわ太郎」
「………いえ結構です」
名付け親というものは、決して簡単なものではないのである。
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