昔勤めていた会社の話。
そこの社長は見た目がガマガエルみたいな感じで、見た目通り、とにかく厳しかった。朝はタイムカードの前で腕を組んで仁王立ちに立ち、二十人ほどの社員の出社をガン見する。
太っている事務員の女子には「おい!横綱!」と、モラハラ丸出しの歯に絹を着せぬ物言いだった。
社員は常にビクビクしていた。嫌われていたと言っていい。
(会社の業績はすこぶるよかった。が、それは本題ではない)
社員は社長のことを「ガマガエル」と陰口を叩いていた。
・・・
その会社では何ヶ月かに一回、社員を連れて飯食い飲み会を催していた。
その時のこと。
社員たちはボックスに陣取り、ワイワイやる。
社長は一人離れ、店のママとカウンター。
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飲み始めて30分ほど立ったろうか、縁もたけなわになるころ、社長はおもむろにボトルを2本ほど持ち、社員たちのテーブルにドンと置き、
「俺は用事あるからな、このボトルの処理はお前らに任せる」
と言って、店を出て行った。
・・・
その社長は怖い。
その怖さでやはり仕事がピリッとする場面は多々ある。
しかし、そのせいで部下たちは社長に心を許さない。
そのことを自分はわかってる。
だからこそ、部下たちがリラックスできるよう、自分だけはカウンターで飲み、早々に切り上げる。
ただ、早々に切り上げると、皆帰らなければならなくなる。
だから、ボトルを2本置いて、処理してこい(ちゃんと飲み干してこい=飲み終わるまで帰らなくていい、ゆっくりしろ)とメッセージを残したのだ。
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私は「やるな、この人。これ、軍隊とかで上官が部下の心を取る、そのやり方だな」と思った。
ヤクザ者が「飲んで来い」と若い衆に財布ごと渡すのと同じ。
「あのアニキは話がわかる」と若い衆は思うだろう。
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もちろん、その気遣いに気が付かないおじさん社員もいた。
「社長だけさ、別に飲んでさ、先に帰るってさ」と陰口を叩いていた。
こういう何も気づかない野面はどこにでもいる。
人間の格が違う。
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「横綱」呼ばわりされた女性事務員はまだ新卒だった。
もちろん未婚。彼氏もいない。そういうのって、痩せればだいたいうまくいくものだ。
その子が楽しい人生を送れるよう、「痩せろ」の意味をキツく言ってたのだ、と後で別の上司から聞いた。
そしてこの「横綱」女性が奮起して、痩せて、素敵な彼氏ができて結婚した、となるとこの話は良い完結になるのだけれど、、、
それは見れなかった。
なぜなら、横綱が痩せる前に、私がクビになったからだ。
先ほど他人を野面扱いしたが、私はそれより下だったと断言せざるを得ない。
・・・
その後、その社長や会社がどうなったかは知らない。
横綱のことも、もちろんわからない。
私にとってその会社は、、、
職を転々とした、そのうちのたったひとつになった。結果、12社転々のカウントに数えられただけである。
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ただ、今も、私は若い衆たちと飲む時はテーブルをなるべく離し「若いのはそっちで飲め」とやり、
基本的には「お前らだけで行ってこい、おっさん連中は誘わなくていいぞ、若手だけで行け」と小遣いだけを渡すようにしてる。
・・・
あれから半世紀近く経ったが、あの社長は今もボトルを渡して先に帰ってるのだろうか?
もう90前だからなあ、ご存命かどうかの方が問題だな。
写真はネットの拾い物。こんな感じでタイムカードの前に仁王立ちしてた。縁起物だと良いのだが。
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