2023年7月21日金曜日

NO.1348 大人の気遣い

 昔勤めていた会社の話。

そこの社長は見た目がガマガエルみたいな感じで、見た目通り、とにかく厳しかった。
 
朝はタイムカードの前で腕を組んで仁王立ちに立ち、二十人ほどの社員の出社をガン見する。
 
太っている事務員の女子には「おい!横綱!」と、モラハラ丸出しの歯に絹を着せぬ物言いだった。
 
社員は常にビクビクしていた。嫌われていたと言っていい。
 
(会社の業績はすこぶるよかった。が、それは本題ではない)
 
社員は社長のことを「ガマガエル」と陰口を叩いていた。
 
・・・
 
その会社では何ヶ月かに一回、社員を連れて飯食い飲み会を催していた。
 
その時のこと。
 
社員たちはボックスに陣取り、ワイワイやる。
 
社長は一人離れ、店のママとカウンター。
 
・・・
 
飲み始めて30分ほど立ったろうか、縁もたけなわになるころ、社長はおもむろにボトルを2本ほど持ち、社員たちのテーブルにドンと置き、
 
「俺は用事あるからな、このボトルの処理はお前らに任せる」
 
と言って、店を出て行った。
 
・・・
 
その社長は怖い。
 
その怖さでやはり仕事がピリッとする場面は多々ある。
 
しかし、そのせいで部下たちは社長に心を許さない。
 
そのことを自分はわかってる。
 
だからこそ、部下たちがリラックスできるよう、自分だけはカウンターで飲み、早々に切り上げる。
 
ただ、早々に切り上げると、皆帰らなければならなくなる。
 
だから、ボトルを2本置いて、処理してこい(ちゃんと飲み干してこい=飲み終わるまで帰らなくていい、ゆっくりしろ)とメッセージを残したのだ。
 
・・・
 
私は「やるな、この人。これ、軍隊とかで上官が部下の心を取る、そのやり方だな」と思った。
 
ヤクザ者が「飲んで来い」と若い衆に財布ごと渡すのと同じ。
 
「あのアニキは話がわかる」と若い衆は思うだろう。
 
・・・
 
もちろん、その気遣いに気が付かないおじさん社員もいた。
 
「社長だけさ、別に飲んでさ、先に帰るってさ」と陰口を叩いていた。
 
こういう何も気づかない野面はどこにでもいる。
 
人間の格が違う。
 
・・・
 
「横綱」呼ばわりされた女性事務員はまだ新卒だった。
 
もちろん未婚。彼氏もいない。そういうのって、痩せればだいたいうまくいくものだ。
 
その子が楽しい人生を送れるよう、「痩せろ」の意味をキツく言ってたのだ、と後で別の上司から聞いた。
 
そしてこの「横綱」女性が奮起して、痩せて、素敵な彼氏ができて結婚した、となるとこの話は良い完結になるのだけれど、、、
 
それは見れなかった。
 
なぜなら、横綱が痩せる前に、私がクビになったからだ。
 
先ほど他人を野面扱いしたが、私はそれより下だったと断言せざるを得ない。
 
・・・
 
その後、その社長や会社がどうなったかは知らない。
 
横綱のことも、もちろんわからない。
 
私にとってその会社は、、、
 
職を転々とした、そのうちのたったひとつになった。結果、12社転々のカウントに数えられただけである。
 
・・・
 
ただ、今も、私は若い衆たちと飲む時はテーブルをなるべく離し「若いのはそっちで飲め」とやり、
 
基本的には「お前らだけで行ってこい、おっさん連中は誘わなくていいぞ、若手だけで行け」と小遣いだけを渡すようにしてる。
 
・・・
 
あれから半世紀近く経ったが、あの社長は今もボトルを渡して先に帰ってるのだろうか?
 
もう90前だからなあ、ご存命かどうかの方が問題だな。
 
写真はネットの拾い物。こんな感じでタイムカードの前に仁王立ちしてた。縁起物だと良いのだが。


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