2024年7月18日木曜日

NO.1441 一流のエリートサラリーマン

私は中卒で、職に着いたときはトビの職人だった。

だからと言ってはなんだけど、東京のエリートサラリーマンってカッコいいなあ、と思っていた。

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クリスマスの夜。彼女との待ち合わせに急ぐ私は、丸の内のビル街を駆けていく。いでたちは、仕立ての良いビジネススーツにロングのコート。手にはビジネスバッグ。一見して、将来を嘱望されるエリートサラリーマン。

チラつく雪。

街中に響くジングルベルの音。

交差点の街灯の下、肩を窄めて待っている彼女に、息を切らした私は足早に近づき、

「ごめんね、待った?」と声をかける。

彼女は「ううん、今来たとこ」と答えるが、かなり待たせたことは足元の乾き具合でわかる。

ネクタイを緩めながら、「じゃあ行こうか」と私。「うん」と答えて彼女は…

という、口にするのもいささか恥ずかしい妄想を若い頃から幾度となくしていた。

そう、私はエリートサラリーマンになるのが子供の頃から憧れだったのだ。

・・・

トビを卒業した私は、妄想とは180度異なるドカタの親方(建築屋は皆ドカタの親方)になり、東京のエリートサラリーマンの機会は失われた。

ドカタの親方として結構大きくはなったけど、夢(というより妄想)を忘れたことはない。

・・・

そんな中、友人の武内さんが帝国劇場のある国際ビルディングの地下にオフィスを構えた。

丸の内のど真ん中。

ここで昼飯を食べる人間は間違いなく丸の内のエリートサラリーマンに見られるだろう。

ついに長年の夢を叶える時が来た。

・・・

丸の内で飯?勝手に食えばいいじゃん、と思われるかもしれないが、決してそういうものではない。

丸の内のオフィスから出て昼飯を食うことが大切なのだ。

単に丸の内で飯食うだけなら、ただの旅行者なのだから。

・・・

ということで、武内さんの事務所を出て、友人の武内さんと三木さんと昼飯を食べに行った。

雪のちらつくクリスマスの、街灯の下で待ってる可憐な彼女とは違い、このオヤジたちは髭が生えてたり、肩がゴツかったりしている。少し違うが、まあこの際細かいことを言うのはやめたい。

丸の内でオフィスから出て飯を食べているのだ。

これで私も、どこからどう見ても、一流のエリートサラリーマンであることはもはや疑うことはできない。

夢叶えたり。

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写真は昼飯に向かう三人だよ。もうすでに、丸の内のエリートサラリーマンだよ。

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