2020年5月10日日曜日

先のことはわからない No.1050

1人の男がいた。10代の頃のツレ。私と同じように、中卒というか、高校中退だった。

(この記事を読んで誰だかわかる人がいても、名前は出さないでね。いないと思うけど。*今日は少し、ヘビーです)

頭が良く、男前で女にモテて、スポーツ万能で、ケンカが強く弁も立つ。人にも優しく、気も回る。ついでに歌もうまい。どの街にもひとりくらいいるような、全てを兼ね備えたタイプ。
 

何をしてもコイツには勝てないな、と私は思っていた。事実、そうであったろう。
 

・・・
 

友人たちの例に漏れず、家庭環境は複雑で、彼はひとり東京へ出た。17歳の頃だったと思う。
 

「俺は日本一の金持ちになる」
 

それが口癖だった彼は、17歳の時から赤坂でバーテンをやり、小金を貯めたりスポンサーを見つけたりして、ハタチやそこらでビジネスを始めることに成功した。
 

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今でいうケータリングを、たぶん、日本で1番早くに手がけた1人だと思う。(そんなようなことを言ってた。裏取りはしてないから責任は持てない)
 

また、当時三つほど会社を持っていた。ファッションが好きだったので、ドイツのケルンから服を輸入する会社。芸能系の事務所は道玄坂だった。六本木にも事務所があった。
 

ハタチそこそこのことだから、かなり早熟といえる。
 

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よく私の地元にも、芸能人を連れてきていた。
 

田舎の港町だったので、すごく珍しかった。今よりずっと、芸能人が貴重な時代だったからね。
 

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順風満帆に見えた彼のビジネスロードは、若いからこその障害に阻まれることになる。
 

騙されるのだ。
 

若くして儲けている彼に、年上の詐欺師みたいな人間たちが群がってきた。
 

どれだけ優秀でも、海千山千の大人から見たら、ただのガキでしかない。
 

寄ってたかって食われてしまった。
 

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結果、彼は、大きな借金を抱え、ビジネスも根こそぎ奪われてしまう。
 

気づいた時にはとても返せる額ではなくなった。結果、彼は元々からヤンチャだったこともあって、、、
 

反社会勢力に傾倒していくことになる。
 

・・・
 

負けん気が強く、引かない彼はさまざまなトラブルに巻き込まれることになる。ある時はヒョンなことから新宿の、ある広域組織の人間とモメた。散々立ち回りした挙句、相手の事務所に火を放った。
 

仕返しに、歌舞伎町で脇腹を刺された。(これは傷痕を見たので、たぶん事実)運良く、死なずには済んだ。
 

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また、六本木の〇〇〇〇の元締めの1人になり、当時のディスコ(クラブ?)のVIPルームで芸能人に○を売っていた(らしい)。
 

しかし、当時、日本に進出してきたコロ○ビアのマフ○アに拉致され、両脇から〇〇を突きつけられ〇〇を全て〇〇られた。
 

(〇〇ばかりですみません。ヒンシュク買いそうなので。ちなみに裏取りはできないから、本当かどうかは責任持てません)
 

怖かった、と言ってた。
 

・・・
 

まあなんにしても、そのように彼の生活はどんどん荒んでいった。ある日などは、部屋に遊びにいくと、壁紙が途中まで剥がしてある。
 

一見して「ああ、けぶってるな」とわかる(まあ、〇〇○やってるな、ということ)状態。
 

その頃から、会うこともなくなってしまった。
 

・・・
 

最後に会ったのは、三十年近くも前なる。
 

その日、「やっちゃん、スパーやろうよ」と言われ(彼は元ボクサーでもあったので)、道ばたで軽く合わせたら、簡単にいなせてしまった。
 

生活が荒れていたからだろう。
 

・・・  
 

街灯の下でスパーやった日から、三十年近くが経った。
 

あの頃、彼を「コイツは俺と違って大物になるんだろうな」と思って見ていた私は、いま、彼の事務所があった街、六本木に住んでいる。
 

そして、二十代の頃の彼と同じように、白いベンツのSに乗ってウロウロしている。
 

・・・
 

今はもう売っちゃったけど、以前、ロールス乗ってる時に、秘書の船川にこぼしたことがある。
 

「あのなあ、ふなちん」


何度か話したことがあるので、船川も彼のことは聞いている。 
 

「本当ならなあ」
 

今ここで、運転手付きのロールスロイスの後部座席に乗って、会社を十も二十も経営しているべきなのは、、、
 

「アイツのはずだったのに」 
 

なんで、入れ違ってしまったのだろう、と。
 

・・・
 

あのころ、彼からはよく電話がかかったきていた。彼はバリバリ東京で会社を経営し、私は地元の現場で汗水垂らしてた。
 

東京で頑張ってることを伝えたかったのだろう。
 

たしか、彼が近藤○彦に「態度が悪い」とガツンと一括したっていう話の時だったかな。私がこんなことを話したことがある。
 

「お前はすごいな。俺は田舎でコツコツ現場や。朝から晩まで汗とホコリにまみれとるわ。まあ、パッとしない人生やで」
 

その言葉に、彼は、こう返した。
 

「いや、それは違う」
 

彼は続けた。
 

「最後には、やっちゃんが勝つ」
 

・・・
 

なーにを、慰めかね、と思って聴いてた記憶がある。実際、そうだったと思う。慰めであったろう。
 

なぜなら、現場で朝から晩まで働いている人間なんて、べつだん珍しくも何ともないからだ。
 

でも、、、
 

たまたま、結果、そうなった。
 

彼のいう通りに。別に、勝ち負けとかでは、ないのだけれど。
 

・・・
 

彼が今、どうしているかは知らない。何しろ三十年近くも顔を見てないのだから。低迷してるのか、逆に成功しているのかも知らない。
 

取り立てて会いたいわけでもないし、会わない方がいいのかも知れない。
 

ただ、もしも、ひとこと話せるなら、
 

「ホントなら、俺よりもお前こそが、こんな人生を送るはずだったのに」
 

とは伝えてみたい。しかし、それもまた詮なきことなのかも知れない。
 

・・・
 

人生とは本当に不思議なものだ。
 

素質や能力だけではない、また努力だけでもない、何かがそこにあるのだろう。
 

運か?それともただの偶然か?
 

「成功」という言葉を考える時、いつも彼のことを考える。そして、理不尽というか、どうしても不思議な思いを禁じ得ない。
 

先のことは、わからないものだ。
 

・・・
 

コロナでいろんな物事や、社会自体がまた変わるだろう。本当の意味で、先のことは読めない。また、ひょっとすると、ある程度先からは、読む必要すらないのかもしれない。
 

毎日、コツコツ、やるべきことを、やるだけなのだから。そしてそんな時、私はよく彼のことを考える。お前の分までも、俺はやっておかなきゃな、と。
 

それは、決して私だけでなく、すべての人がそうなのだろう。コロナだろうが何だろうが、やるべきことは同じなんだ。
 

今日も、また、精一杯。
そして明日も。

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